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BCP を作るのが難しいのはなぜか?

2017/08/25

トピックス

(株)サイエンスクラフト
防災部 田代邦幸

恐らく弊社の Web サイトにアクセスされた方々の多くは、BCP を作るのは難しいと考えておられると思います。もちろん簡単という訳にもいきませんが、「難しそう」という印象が障壁となって、皆様が BCM に取り組むのに二の足を踏んでしまうのはもったいないので、本稿では BCP の難易度を下げるためのヒントをお示ししたいと思います。

日本で BCM に取り組まれている企業の多くは、大規模な地震や津波などが発生することを想定して BCP を作成しておられると思います。もちろん日本では諸外国に比べて地震や津波が発生する可能性が高いですし、過去に大規模な地震災害が国内で発生していますので、地震災害が発生した場合の対処方法を考えておくのは必要なことです。そのような検討を進めるために、大規模な地震が発生した場合の「被害想定」を作成することも一般によく行われています。
しかし、大規模な地震に対応するという前提を置くことが、BCP を作成する作業の難易度を極端に引き上げているのも事実です。
(本稿で扱う問題は地震や津波に対してだけでなく、新型インフルエンザのパンデミックのような広域災害にも同様に考えられますが、本稿では便宜上「地震」に絞って説明させていただきます。)

ご承知の通り、大規模な地震が発生すると、建物の倒壊や設備の破損、停電や断水、通信の途絶、公共交通機関の停止などといった様々な事象が同時に発生する可能性があります。場合によっては顧客やサプライヤー、業務委託先なども同時に被災し、事業活動が中断されることもあり得ます。
しかしながら、これらが必ず発生するとは限りませんので、地震が発生した後にどのような状況になるかは、これらの様々な条件の組み合わせで決まります。ところが考えられる組み合わせは無数にありますので、被害想定を考えるだけでも大変な作業になります。

その後でさらに BCP の作成に進むときには、目標復旧時間(注 1)を設定することになりますが、多くの場合、顧客が同時に被災するかどうか、および顧客の事業中断がどのくらい長引くかによって、目標復旧時間は大きく変わる可能性があります。BCP を作成する前に、これらの条件を決められるでしょうか?

つまり大規模な地震や津波を想定して BCP を作ろうとすると、被害想定や目標復旧時間を決めるために、多大な労力、議論、時間が必要になります。この段階で行き詰まってしまうのは、非常にもったいないことです。
そこで本稿では、BCP の作成をスムースに進めるためのポイントを 2 つお伝えしたいと思います。1つは、大規模な地震や津波を考えることから一旦離れ、BCM の基本に戻ってみること、もう1つは、目標復旧時間をあくまでも「仮の目標」と割り切ることです。そして、これら 2 つはセットで考えていただく必要があります。

 

1) BCM の基本に戻ってみる

地震や津波などの大規模災害の発生によって、広範囲にわたって様々な障害が複合的に発生するような状況を考えて対応計画を検討するのは、BCM においてはかなりハイレベルな応用編です。したがって特に初めて BCP を作成する場合には、まず基本を押さえることをお勧めしたいと思います。
では BCM の基本がどのようなものかというと、自社が単独で事業中断に陥った状態、つまり世間では通常通りの生活や事業活動が営まれているのに、自社内の問題(例えば火災、設備の事故、情報システムの障害など)で事業活動が止まってしまった状態を考えることです。

(このように書くと、「そのような前提で作られた BCP では地震に対応できないから意味がないではないか!」と言われる声が聞こえてきそうですが、基本編のやり方でも地震に対応可能な BCP を作成することができます。この点については後日あらためて別の記事でとりあげます。)

原因が何かはさておき、自社の製品が急に出荷できなくなったらどうなるかを(サービス業であれば、自社のサービスを急に提供できなくなったらどうなるか、と置き換えて)想像してみて下さい。顧客は通常通りの状態だとして、

– どのくらいなら待ってくれるでしょうか?
– どのくらい長引いたら深刻なクレームになるでしょうか?
– どのくらい長引いたら競合他社に乗り換えられてしまうでしょうか?
– どのくらい長引いたら、自社の売上や利益に対する損害が致命的になるでしょうか?

また、自社の数ある製品のうち、どの製品の出荷が止まるのが最も深刻でしょうか?

自社以外が全て通常通りだとして、上のようなことを考えるのが、BCM の基本です。

(上の説明は顧客を対象に考えていますが、サプライヤーに対しても同様に分けて考えます。自社も顧客も通常通りなのに、ある特定のサプライヤーからの仕入れができなくなったらどうするか?と考えます。これについては後日あらためて別の記事でとりあげます。)

まず、このように基本に沿った形で考えてみた後で、もし顧客も同時に被災したらどうなるか?を追加で考えます。もし顧客も事業中断に陥った場合は、上の「どのくらい長引いたら」という期間が少し長くなると考えられます。また顧客も同時に被災するような大規模災害であれば、顧客もある程度は同情して許容してくれるかもしれません(逆に単独での火災や設備の故障などでは顧客は同情してくれません)。
このように、いったん基本に戻ってシンプルな形にして、BCM の根本にかかわる課題を整理してから、地震や津波だったらどうなるかを考えることをお勧めします。(注 2)

 

2) 目標復旧時間は仮の目標であると割り切る

前項のとおり BCM の基本に戻った考え方、つまり自社以外が全て通常通りの状況であれば、目標復旧時間を設定するのは比較的容易です(注 3)。ところが大規模災害が発生して顧客も同時に被災するような状況を想定して、目標復旧時間を設定するためには、電力などの社会インフラの停止期間や、顧客における事業中断の長さ、サプライヤーからの仕入れの遅れ、設備の復旧にかかる期間など、様々な仮定が必要になります。そして、仮定が増えれば増えるほど、目標復旧時間を決める根拠が不確かになっていきます。
根拠の乏しい目標にどれだけの意味があるでしょうか?

現実的には、自社以外が全て通常通りの状況であるという条件でないと、根拠に基づく目標復旧時間を設定することはできません。
ただし、実際に事業中断が発生したときには、自社以外にも社会インフラや顧客、サプライヤーにも何らかの被害が発生する可能性があります。したがって、BCP を作成するときに決める目標復旧時間は、あくまでも仮の目標と考え、実際に事業中断が発生したら、社内外の状況を把握した上で目標復旧時間を修正するという運用にした方が現実的です。
例えば BCP の中で、ある製品の出荷に関して決めた目標復旧時間が 10 日だとします。もし大規模な地震によって停電や公共交通機関の運休などが発生し、いくつかの顧客も被災したという状況が分かったら、災害対策本部でそのような状況を勘案して、目標復旧時間を(例えば)30 日に変更し、社内に周知します。
また、発災後しばらく経ったところで新たな情報が入ったり、社内の復旧業務がある程度進捗したところで、当初の見立てよりも長引きそう(もしくは早められそう)という状況が見えてきたら、再び目標復旧時間を変更して、社内に周知します。大事なことは次の 2 つです。

a) 目標復旧時間を決める人に必要な情報を集めること
b) 変更された目標復旧時間を確実に周知すること

このような運用を確実に行うという前提で、目標復旧時間はあくまでも BCP 作成時点での仮の目標と位置づける割り切りによって、BCP の作成がよりシンプルかつ容易になります。BCP で決めておくことと、災害が発生してから考えることとの間のバランスを考え、シンプルかつ合理的な BCP を目指してください。

以上

 

(注 1)目標復旧時間とは、災害などによって事業活動が中断された場合に、どのくらいの期間のうちにその事業活動を再開させるかを、目標として定めたもの。

(注 2)事業影響度分析(business impact analysis:BIA)も、まずこのような基本的な条件で実施し、顧客が同時に被災したらどうなるか、大規模災害によって自社の商品やサービスに対するニーズの優先順位がどう変わるか、などについては特殊条件に基づく分析として後から追加します。

(注 3)より正確に言うと、「最大許容停止期間(Most Tolerable Period of Disruption:MTPD)を見出すのが比較的容易なので、目標復旧時間を設定しやすい」という事になります。

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