内閣府や経済産業省から 2005 年に事業継続マネジメント(BCM)に関するガイドラインが初めて公表されてから 10 年あまりが過ぎ、日本でも事業継続計画(BCP)を作成した企業が増えてきました。しかしながら一方で、これから BCM に取り組み始めるという企業も、まだまだ多いと思います。
そこで本稿では、BCM に取り組み始める初期の段階で、企業の中でしっかり議論しておくべきことについて、お伝えしたいと思います。それは「当社はなぜ、何のために BCM に取り組むのか?」という事です。
このように書くと、「それはビジネスを早く再開・復旧させたいからに決まっているではないか」と思われるかも知れません。そう思われた方は「当社はなぜビジネスを早く再開・復旧させたいのか?」を考えてみていただきたいのです。

ビジネスを早く再開・復旧させたい理由は、個々の企業によって異なります。典型的な例をいくつかお示しします。

a) 売上や利益の減少を少なくしたいから
b) 自社のビジネスの中断によって顧客に発生する損害(もしくは混乱、迷惑など)を少なくしたいから
c) 自社のビジネスが社会のインフラを担っており、中断による社会への影響が大きいから
d) 納期の遅延やサービスの中断によって違約金などのペナルティが発生するから
e) 自社のビジネスが中断している間に競合他社に顧客を奪われたくないから
f) ビジネスの中断によって企業イメージが悪くなるから

 

もちろん理由が 1 つだけとは限りません。むしろ「顧客に対する悪影響を防がなければならないが、自社の売上の減少も避けたい」など、いくつかの理由の組み合わせになることが多いのではないかと思います。
その場合は、どちらの方がより大事なのかをしっかり議論していただきたいと思います。

このような議論をお勧めする理由は、BCM に取り組む目的がはっきりしていないと、取り組みの方向性がブレる可能性があるからです。
例えば製造業の会社で、大規模な事故や災害によって製品の生産が中断し、全面復旧まで時間がかかる場合、製品の種類を限定して部分的に生産を再開させることがあります。そのとき、もし「売上が最も大きい製品」「利益率の高い製品」「大口顧客が早急に必要としている製品」「競合他社との競争が厳しい製品」がそれぞれ別の製品だとしたら、どの製品から優先的に生産を再開させるべきでしょうか?

災害が発生した後にこのような議論が始まるようでは、早急な再開はできませんので、あらかじめ BCP の中で優先順位を決めておくのですが、BCM に取り組む目的が定まっていないと、BCP を作るプロセスの中で議論が発散してしまったり、いろいろなものを詰め込み過ぎた欲張りな BCP になってしまう可能性があります。
したがって弊社でも、新たに BCM に取り組み始めるお客様に対してコンサルティングを提供させていただく場合には、まず BCM に取り組む目的を明らかにすることから始めます。

なお、「ビジネスを早く再開・復旧させたい」という直接的な目的だけでなく、「BCM に取り組むこと自体が顧客からの信頼感や安心感に繋がる」という理由から BCM に取り組む場合もあります。その場合には BCM の中身だけでなく、説明の仕方も重要になります。
演習や訓練の状況を写真やビデオで記録しておくなど、日頃の BCM 活動の中で、顧客への説明に役立つデータを集めておくことも必要でしょう。ISO 規格などに基づく認証取得も検討する価値があります。
もちろん、説明の仕方ばかりが先行して内容が伴わないようでは本末転倒ですが。

このように、BCM に取り組む目的の違いによって、活動の方針や戦略が大幅に変わる可能性があります。BCP を作成するための具体的な作業の段階に入る前に、ぜひ経営層も含めて、BCM の目的について本音で議論をしていただきたいと思います。

投稿者プロフィール

田代邦幸 株式会社サイエンスクラフト(東京事務所)防災部 シニアコンサルタント