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防災メディア
事業継続計画(BCP)の整備が災害拠点病院における必須要件に
2017/06/05
厚生労働省は各都道府県に対して、災害拠点病院の指定要件の改正を 2017 年 3 月 31 日付けで通知した(1)。これは熊本地震以降に開催された「医療計画の見直し等に関する検討会」での議論が反映されたもので、災害拠点病院として指定されている病院、および今後指定される病院に対して、事業継続計画(BCP)の整備と、それに基づく訓練の実施を求める内容となっている。
1. 改正のポイント
前述の通知の「別紙」として「災害拠点病院指定要件」が添付されているが、この中で「(1) 運営体制」に次の 3 点が追加された(2)。
- 被災後、早期に診療機能を回復できるよう、業務継続計画の整備を行っていること。
- 整備された業務継続計画に基づき、被災した状況を想定した研修および訓練を実施すること。
- 地域の第二次救急医療機関及び地域医師会、日本赤十字社等の医療関係団体とともに定期的な訓練を実施すること。また、災害時に地域の医療機関への支援を行うための体制を整えていること(3)。
なお、既存の災害拠点病院についても、2019 年 3 月までに上記 a または b の要件を満たすことが求められており、これらを満たしていない病院については、災害拠点病院の「指定の解除を行うこと」と記述されている。すなわち全ての災害拠点病院でBCPの整備が必須条件になったという事である。
2. 改正までの経緯
今回の改正に対する直接的なきっかけは、2016 年 9 月 9 日に開催された「第四回 医療計画の見直し等に関する検討会」(4) において、熊本地震での医療活動において浮き彫りとなった課題を含めて、次のような議論が行われたことである (5)。
- 医療機関における BCP の策定が進んでいない。内閣府の調査によると 8 割以上の医療機関が BCP を策定していない(6)。災害拠点病院であっても、BCP 策定済みの病院は約 3 割にとどまっている。援助を数日間得られない場合もあるので、全ての病院が早急に BCP を持つべきである。
- 広域医療搬送を想定した訓練等に積極的に取り組んでいただく必要がある。特に、今後想定されている南海トラフ巨大地震など、広域で被害が発生する災害を想定すると、近隣都道府県が連携した広域の搬送訓練が必要である。
- 東日本大震災において、少なくとも 138 人の防ぎ得た災害死があった。その半数は、BCP が整備され、それが適切に運用されれば防げた可能性があったと報告されている。
- 熊本地震では 10 カ所の病院で避難を強いられたが、避難の原因は耐震、インフラがほとんどであった。
- 例えば在宅酸素療法を受けている患者や透析患者は、発災から 2~3 日中に対応が必要になる。特に、透析を担っている病院では、非常に大量の水を必要とする。
- 自家発電設備のための燃料も 3 日分くらいしか用意していないところが多い。
なお、今回の改正前の時点で適用されていた「災害拠点病院指定要件」は、2012 年に「災害時における医療体制の充実強化について」という文書の別紙として、各都道府県および各政令市、特別区に対して通知されたものである(7)。この通知文書の中にも「医療機関は自ら被災することを想定して災害対策マニュアルを作成するとともに業務継続計画の作成に努められたい」という記述はあるものの、それ以上の具体的な記述はなく、指定要件の中にも BCP に関する要件はない。
また 2013 年 9 月には、厚生労働省から各都道府県衛生主管部(局)長あての「病院における BCP の考え方に基づいた災害対策マニュアルについて」(8)という文書の別紙として、「BCP の考え方に基づいた病院災害対応計画作成の手引き」が配布されている。
したがって、厚生労働省が病院の BCP に関して文書を出したのは今回が初めてではないが、今回は「災害拠点病院指定要件」という、強制力を持つ形で出されている点が大きく異なる。
3. これから実施すべきこと
少なくとも既存の災害拠点病院においては、今後 2 年弱の間に BCP を作成し、それに基づいて外部組織と共同での訓練を実施しなければならない。また災害拠点病院以外でも、地域の医療環境において重要な位置づけとなっている病院においては、同様の取り組みが期待される。
BCP の内容に関する具体的な要件は特に明示されていないが、前述の経緯を踏まえれば、2013 年の「BCP の考え方に基づいた病院災害対応計画作成の手引き」に記述されている範囲は当然カバーすべきであろう。この手引きの後ろの方には、「BCP チェックリスト」として、病院で BCP に取り組む上で確認または考慮すべきポイントがまとめてあるので、まずはこれに基づいて現状の把握と課題の抽出から始めるのも一案である。
また訓練に関しては、外部組織との間での合同訓練が求められているが、複数組織による合同訓練を計画・準備し、訓練当日のコーディネートを行うには、ある程度のノウハウや経験が求められる。まずは病院内、それも小規模なチームなどでの机上演習など、難易度の低い演習や訓練を重ねて、組織内で経験を積んでから、中規模、大規模な訓練に臨むことをお勧めしたい。
脚注)
(1) 医政発 0331 第 33 号「災害拠点病院指定要件の一部改正について」
(2) 他にも細部の変更がいくつかあるが本稿では記載を省略する。
(3) 従来の指定要件でも、地域の第二次救急医療機関とともに定期的に訓練を行うことが求められていたが、今回の改正では地域医師会や日本赤十字社等の医療関係団体が訓練対象として追加された。
(4) 厚生労働省 Web サイト「2016年9月9日 第四回医療計画の見直し等に関する検討会」
(5) 厚生労働省の Web サイトで公開されている議事録から、該当する発言を要約して順不同で掲載した。
(6) 内閣府防災担当「特定分野における事業継続に関する実態調査 <参考>医療施設・福祉施設2013 年 8 月」
(7) 医政発 0321 第 2 号「災害時における医療体制の充実強化について」
(8) 医政指発 0904 第 2 号「病院における BCP の考え方に基づいた災害対策マニュアルについて」 (なお、以上の URL はいずれも 2017 年 6 月 2 日アクセス)
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