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「訓練」と「演習」の違いを知る

2017/09/11

トピックス

(株)サイエンスクラフト
防災部 田代邦幸

災害などのインシデントに対するインシデントへの対応力を高めるために、訓練や演習が必要であるという点に関しては、恐らく議論の余地がないと思います。
これらについて、一般には「訓練」という用語が使われることが多いのですが、専門家は「訓練」と「演習」という 2 つの用語を使い分けています。

 

「訓練」とは、所定の業務や手順を正しく、より確実に(またはより速く)実行できるようになるのが主な目的です。これに対して「演習」とは、計画やマニュアルの内容を含む、インシデントへの備えが妥当かどうかを確認・検証するのが主な目的です。
芝居に例えると、訓練は「稽古」に相当するといえます。セリフを噛まずに言えるように、より感情を込めて言えるように練習したり、台本や演出に合わせて自然に体が動くように、1人で、もしくは共演者と一緒に練習します。
一方で演習は「リハーサル」のようなものです。リハーサルでは、衣装や小道具が全部揃っているか、照明や音響などの舞台設備がちゃんと動くか、場面転換や衣装替えなどの段取りに抜けや漏れがないか、時間的に間に合うかどうか、客席からどのように見えるか、などを確認し、必要に応じて調整や変更を加えます。

 

読者の皆様の中には、ここまでお読みいただいたところで、「これまで自社で〈訓練〉と称していたものは実は〈演習〉だったのか!」とお気づきになった方(もしくはその逆)もおられると思います。しかし、だからといって必ずしも急に呼び方を変える必要はないでしょう。それは訓練にも演習にも、実践においてはそれぞれ両方の効果が含まれるからです。
訓練の実施中にマニュアルの不備や機材の不具合などが見つかることがあります。また演習を行うことで対応手順に対する理解が深まる、ということもあると思います。したがって、実際にこれらを実施するときに、名称の使い分けを厳密にする必要はないでしょう。(注 1)
しかしながら、これらを企画・準備するお立場の方々は、これらの使い分けを正しく理解しておくべきです。主な理由は 3 つあります。

 

1つめの理由は、企画段階でのブレや迷いを減らすためです。
訓練や演習を企画するときには、ついつい内容を欲張りすぎて、いろいろな要素を詰め込みたくなることがあります。しかし時間や場所、参加者などの制約から、全て実施できるとは限りません。その際に「今回やろうとしていることは、主に〈演習〉なのか?それとも〈訓練〉なのか?」が初期段階で明確になっていれば、それを軸として取捨選択することができます。

 

2つめは、関係者の間で目的意識を共有するためです。
参加者の皆様の貴重な時間を使って、訓練や演習を行うのですから、実りの多い活動にするために、参加者全員に目的や目標を説明し、理解してもらってから行うべきです。
例えば、実際に演習を行ったときに、チーム間の連携がうまくいかず、途中で演習を中断しなければならなくなったとします。このとき、予定されていた演習を全部こなせなかったから演習が失敗だったと思う人と、連携に関する問題が発見できたから演習は成功だったと思う人が混在していると、その後の改善活動の妨げになりかねません。(注 2)
そのような認識のズレが生じないように、訓練や演習の開始前に目的や目標を定めて周知する必要があります。このとき、〈演習〉なのか〈訓練〉なのかがはっきりしないと、目的や目標を検討しにくくなります。

 

そして 3つめは、外部に対して説明するときに間違えないためです。
企業においては、災害対策や事業継続マネジメント(BCM)への取り組み状況について、取引先などから問い合わせを受けることがあります。このときに「どのような演習をやっていますか?」という質問に対して訓練の実績を答えてしまうと、相手の期待に沿わない回答になってしまいます。
ちなみに英語では「exercise」が「演習」、「drill」が「訓練」に相当しますので、外国の取引先からの問い合わせを受けた場合は注意してください。
また、国際規格 ISO 22301 に基づく認証取得に取り組まれている場合は、この区別は特に重要です。規格本文をよく読んでいただければお分かりいただけると思いますが、規格における要求事項の中で、演習が求められている箇所と訓練が求められている箇所は異なります(さらに ISO 22301 では、これら以外に「試験」(test)と「教育訓練」(training)という用語もありますのでご注意ください)(注 3)。
これらを区別した上で、どのような事が要求されているのかを理解し、どのような取り組みが必要なのかを検討する必要があります。

 

そして、災害対策や事業継続マネジメントにおいては、訓練と演習との両方が必要です。これらの意味や狙いを区別して、バランスよく取り組んでください。

以上

 

(注 1)現実的な問題として、このような事を社内に(場合によっては経営層まで含めて)説明するのは、かなり面倒かもしれません。そのような用語や表現に関する説明に時間やエネルギーを使うよりも、他のことに使った方が良いという判断もあるでしょう。

(注 2)特に、担当部門としては課題をたくさん洗い出そうと思っていたのに、社長はシナリオ通りに円滑に進行するような演習を期待していた、といった行き違いは、後で深刻な事態を招きかねません。

(注 3)本稿における用語の表記は ISO 22300、22301、およびこれらを日本語訳された JIS Q 22300、22301 に準拠しています。

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